このコラムでは、イノベーション創出力を磨く方策として、コンセプトを考えアート作品を制作するということを、事例とともに紹介します。
コロナ禍で子供たちが創った「すいぞくかん」
2022年4月24日の日本経済新聞、作家の辻村深月さんのコラムがでています。
お子さんが通った保育園で、卒園式の少し前に行われる「おみせやさんごっこ」についての話。グループに分かれ食べ物や衣料品など商品を決めます。自分達で商品を作ると、園長先生が「保育園銀行」から給料を払ってくれて、その給料で自分の好きな物を買うというイベントです。
今回、商品だけでなく、「びょういん」と「すいぞくかん」という体験を提供するおみせが登場しました。
透明で青みがかったビニール袋を段ボールの底に敷き、覗(のぞ)き込むスタイルなのだが、実は、これは最初、実際に水を入れた水槽で展示しようとしたところ、イメージが違うと試行錯誤した結果、そうなったらしい。段ボールの水槽を閉じると暗くて見えなくなるため、上からライトで照らし、その様子が「本当の深海みたい!」と大好評だったそうだ。
「おみせやさん」というと、普通は形のある商品を作ろうとすると思いますが、「びょういん」や「すいぞくかん」という体験を提供しようという発想はユニークで素晴らしい。辻村さんの上のお子さんのときには、このような企画は出なかったそうです。コロナ禍で友達と遊ぶことも思うようにできなかったことや病院の話題が身近になったことが影響したのでしょう。
最初は水槽を使ったけれどうまくいかず、段ボールを使ったというように、自分の手を動かして作ってみることは、創造力を高めるのにとても大切です。
企業人がアート作品を創る
自分で手を動かして作ってみる経験は、企業人の創造性を磨くうえでも重要です。
企業ではもちろん実際の商品やサービスを作っているわけですが、新たな商品やサービスを考えるときに、ネットなどで調べたり専門家にヒアリングしたりして企画書を作ることが多いと思います。研究所などでは、プロトタイプを作ったり実験したりしていますが、自分の手を動かして発想している人は限られているのではないでしょうか。
机上で考えていると、固定観念に囚われて、思考を飛躍できないことが多いと思います。
私が行っているワークショップでは、ビジネスパーソンにアート作品を創ってもらっています。自分の興味のある社会事象についてリサーチして、ネットなでに出てくる言説とは違う、オリジナルなコンセプトを考え、そのコンセプトを作品で表現するというものです。
ここでアート作品を創るということが重要だと考えています。最初から、自分の事業に関連した商品のプロトタイプを創ろうとすると、実現できるかどうか、収益があげられるかどうかということを考えてしまい、発想が狭められていしまいます。
アート作品だとそのような制約から解き放たれ、ぶっとんだ発想ができるようになるのです。また、手を動かすことで、コンセプトをブラッシュアップすることができます。
赤い色の新たなコンセプト
ワークショップでの事例を紹介しましょう。
コンサルティングの仕事をしている人が、最近、鉄腕アトムの形の信号やエルビス・プレスリーの形の信号など、いろいろな信号が登場していることを面白いと思いました。
議論している中で、私は、「信号はどこの国に行っても、赤が止まれなのがポイントなのでは」とコメントしました。
その後、そのコンサルタントは、娘さんと一緒にいろいろな色の風船を膨らませて並べてみました。すると、赤い風船からは、見つめられているような感じを受けたそうです。
そこで、赤い風船に目玉をつけた信号を作品として創ってきてくれました。
赤は長波長で直線性が高く、エマージングなところに使われていますが、赤が積極的に人を見ているというコンセプトは、かなり飛躍しています。でも、このコンセプトを元にすると、赤い色について、これまでとは違った使い方ができる可能性があります。これも実際に風船を膨らまして比べてみたことで発見できたのです。
手を動かし創ることで磨かれる「クリエイティブ・マインドセット」
世界的デザインコンサルティング会社IDEOのCEO、ティム・ブラウンは学生時代デザインを専攻しました。彼は学生時代の経験について次のように言っています。
私がデザイン専攻の学生だったときは、プロジェクトを次々やりました。卒業するまでには、経験は何十件にも及んでいました。
私の同僚であるデイヴィッド・ケリーの考え方に『クリエイティブ・マインドセット』というものがあります。これはアイデアを出す能力とそれに基づいて行動する勇気とが組み合わさったものです。しかし大半の組織では、このマインドセットを醸成させるための努力をほとんど何もしていないのが実情です。
私のワークショップに参加したビジネスパーソンたち、最初にアート作品を創ると言われたときは、「なんでそんなことをするんだろう。」と思っていたかもしれません。
でも、実際に経験することで、先ほどの信号のように、「クリエイティブ・マインドセット」を発揮できるようになります。
ゴミを出さない彫刻を創ってみよう!
最後に、あるアーティストから出されて、私も実際に制作したワークをお知らせします。
まず、彫刻用の木材(直方体)と彫刻刀を用意してください。
そして「満足」というコンセプトを彫刻で表現してください。ただし、ゴミを出してはいけません。
さて、あなたはどのような作品を創りますか?
アート作品を制作するワークショップに興味のある方は「Our Business」をご覧ください。
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