8000m峰14座に挑む:興味あるものに徹底的に向き合う

 

 

地球上には標高8000mを超える山が14峰あります。この14峰制覇に挑戦している写真家の石川直樹さんの展覧会が、日比谷図書文化館で行われました(2023年12月16日〜2024年2月18日)。今回の記事では、写真家としての石川さんの視点と、興味あるものに徹底的に向き合うことについて紹介します。

 

ASCENT OF 14:14峰の登頂記録と歴史を並べて展示

石川さんは、昨年秋の時点で13峰の登頂を達成しました。そして、最後の山シシャパンマへのチャレンジ中に、山頂付近で雪崩が起き、他のパーティが巻き込まれるという事態となり撤退しました。今回の展覧会では、これまでの自身の登頂の記録と、それぞれの山に最初に登頂した人の登頂記を並べて展示しています。

 

 

 

本と組み合わせた展示というのは、図書館ならではの工夫です。8000m級の山への登頂が始まったのは1950年〜60年代、初めての登頂は、ルートもわからず非常に過酷なものでした。登頂記には、ルートを探して北に向かったり、南に引き返したり、途中でシェルパが喧嘩をしたりといった行動が克明に記録されています。

石川さんは、これらの本のルート探して登っていく描写には高揚感は感じられないけれど泣けてくる、14峰全ての登頂記が日本語に翻訳され出版されていることが凄い、他の言語では全部翻訳されてはいないのではないかと語っています。

 

8000m峰の個性と魅力を写真で伝える

8000m峰の山がどんなところか、私には想像もつきません。空気中の酸素濃度が3分の1まで低下する「デスゾーン」と呼ばれる世界。石川さんは、雪山の写真をみるとみな同じように見えるかもしれないけれど、それぞれの山に個性があって全く違う、だから実際に登って自分の目で観て身体で感じることが大切だと言います。

石川さんの写真は、いわゆる山岳写真とは異なります。麓の村々の文化や、シェルパの生活風景から、「デスゾーン」や山頂まで、これはと感じたものにカメラを向けます。

渋谷の街中でも、ヒマラヤでも撮り方は変わらない。ものすごい瞬間を収めるのではなく、自分が反応したものを撮る。つまり山を撮るのではなく、山で撮る

彼の写真には、山の美しさだけでなく、山と人との関係や、山に挑む人の心情や苦悩も表現されています。

 

フィルムカメラで一期一会の光を捉える

カメラもデジカメだと、何枚でも撮れてしまい、いい加減な撮り方になってしまうので、石川さんは、フィルムの中判カメラ「プラウベルマキナ670」と「マミヤ7II」を使っています。登山では、とにかく荷物を軽くすることが重要。多くの登山家がコンパクトデジカメやスマートフォンを使って写真を撮っているなか、重いフィルムカメラを持って登っているのです。

フィルムは失敗してもやり直せず、一期一会の光が焼き付く。自分の登山がフィルムに定着する感覚がある

なんと、8000mの山頂でも、手袋をとってフィルム交換することもあるそう。そこまでして捉えた写真には、その時その場所で生きた証が写っているに違いありません。

石川さんが登った最初に登った8000m峰はエベレスト、2001年と2011年の2回登っています。2011年は下山中に第4位の山 ローツェ(8516 m)が見え、「ローツェからはエベレストはどんなふうに見えるのだろうか」と思いを巡らせ、2013年にローツェに登頂。山頂からエベレストの勇姿を撮影しました。

エベレストの写真は数多く撮られていますが、多くは麓から見上げたものや空撮です。8500mの地点から水平の視点で撮られた写真は非常に貴重です。

 

興味あることに真剣に向き合うことの至福

これ以降、石川さんの14峰へのチャレンジが始まるのですが、下山のときに、次はどうするかをいうことを考えるし、思いを馳せると言います。

興味のあることに真剣に向き合うことで、次々とやりたいことが出てきて、それに挑戦することで新たな発見がある、なんとも充実した生き方。私たちビジネスパーソンも、こんなふうに真剣に向き合えるものを見つけ出すことで、その分野の唯一無二の存在になることができると思います。

自分の関心あるものを過剰なまでに撮ると、それが作品になる。知っているつもりにならないことが大事。それは目をつぶるのと同じだ。手探りで見るような気持ちになれば、おもしろいものはいくらでもある

 

関連リンク