かつて「扉座」という劇団の演目に「フォーティーンブラス」というものがありました。
シェイクスピアの「ハムレット」の芝居の中で、
約2時間後に舞台を通り過ぎるだけのノルウェー王子フォーティンブラス、
彼を主役にした芝居です。
演劇には、それまでワキ役だった人物を主役にする作品がわりとあります。
今回、KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオで
現代アーティストの小金沢健人さんが行ったのは、
役者の芝居を引き立てるための照明、サウンド、そしてスモークを主役にして、
劇場という空間の特徴をあぶりだしたインスタレーション。
果たしてこれらの装置は主役になることができるのでしょうか?
劇場というブラックボックス
美術館のホワイトキューブに対して、
劇場はスポットライトを効果的にするため暗い色の壁になっています。
KAATの中劇場は真っ黒なブラックボックス。
この空間で現代アートを展示するとどうなるかというチャレンジングなシリーズ。
小金沢さんは劇場で行われている様々なことを取材、
役者の演技を引き立てるために使われる照明、サウンド、スモークという
いわば裏方に着目し、これらを主役に抜擢、
美術館にはない劇場ならではの特徴を見出すこととなったのです。
毎日劇場で仕事をしている人たちには当たり前すぎることも
アーティストの視点で観ると気づくことがあります。
実際に劇場内に入るとスモークが立ち込め視界はとても悪い。
あっちのスポットライトが点いたかと思うと
今度はこっちのスポットライトと光線が移動していきます。
スポットライトのあたらないパフォーマンス
中央にピアノが置かれていますが、スポットライトの移動とともに
ピアノの影も変化する、これが結構幻想的。
実はこれだけの展示で、もっとなんかないのかと探してしまいます。
そんな人間の疑問に応えるかのように時々パフォーマンスが行われます。
となると今度は、普通の舞台になってしまいそう。
今回の主役は、やはり照明、サウンド、そしてスモーク、パフォーマーは脇役です。
スポットライトはパフォーマーを狙うことはせず、暗い中でのパフォーマンス。
何をしているのかよく見えず、集中して見ることができません。
スポットライトが人の目を集中させるのにいかに重要な役割を果たしているか
気づかせてくれる構成です。
ネオン管の客演
そして天井には、舞台装置とは直接関係のないネオン管が吊り下げられています。
使い古されたネオン管を小金沢さんが集めてきたものたち。
この空間では唯一色を持っています。
スモークが焚かれていてもはっきり見え、スポットライトも必要としない、
異端の存在。
この異端の客演があるから空間にメリハリがついています。
主客を逆転させ、客演を投入することで新しい関係性を創り出す、
芝居の演出をアートに取り入れたインスタレーションと言えるでしょう。
開催概要
小金沢健人展 「Naked Theatre – 裸の劇場」
会期:2019年4月14日〜5月6日
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオ
神奈川県横浜市中区山下町281
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