国立近代美術館で開催されている『高松次郎ミステリーズ』。
高松次郎は、1960年代、中西夏之、赤瀬川原平とハイレッドセンターを結成、
その後、「影」シリーズ、河原の石に数字を書き続けたもの、
遠近法を逆にした作品など多種多様な作品を作り続けた。
その多種多様な作品群が伝わる展覧会にするため
いくつもの工夫がなされている。
桝田倫広さん、蔵屋美香さん、保坂健二朗さんの
3人のキュレーターが、前期、中期、後期をそれぞれ担当、
いわば3つの展覧会を同時に創ったといってもいい。
会場構成はトラフ建築設計事務所(鈴野浩一さん、禿真哉さん)に依頼された。
3人のキュレーションを活かし、
高松次郎のミステリーな部分を引き出すために。
近代美術館の展示会場には大きな柱が6本ある。
通常はこの柱の間に壁を設置し、作品を展示する。
自ずと壁に沿った動線ができる。
空間に縛られるのではなく、空間を活かすにはどうすればいいか。
大きな壁を作ることなく、床や作品台を使って作品を展示することに。
その効果により、遠くが見渡せる会場に仕上がった。
動線も自由になり、自分の好きなように作品を観ることができる。
次々に提示される証拠物件をつないで、
真相を追求する探偵になった気分で会場内を回遊する。
ところが、高松次郎のミステリーはそう簡単に解くことはできない。
多様な作品の数々に謎は混迷を極める。
ミステリーをさらに盛り上げるため、
ポスターやキャプション、カタログなどのグラフィックは菊地敦己さんが担当。
キャプションには少しグレーを入れた文字を使い、
ここから中に入ってはいけないという結界の線の幅・色などにもめちゃくちゃこだわった。
展覧会を見終わったらそれで終わりではなく、
すっとすっと続く謎を解明する旅、
その旅の地図の役割を持つカタログ、
菊地さんは、これを美術書の形式ではなく書物の形で作った。
高松次郎の作品は、眺めるものではなく、読解を必要とするのだから。