アート思考入門(1)企業が学べる3つの姿勢( 戦略フォーサイト)

baloon

 

日経産業新聞 2021年6月2日に寄稿した記事を転載します。

 

 先が読めない世界で新しいものを創り出すにはどうしたらよい

か。ビッグデータ分析や人工知能(AI)を超えた発想をするに

は何をすればよいか。製品開発での限界の突破に悩むビジネスの

領域で、数年前から脚光を浴びているのが「アート思考」である。

ゼロから1を生み出すアーティストの力に多くの人が注目して

いる。

 

 ただ、「アート思考」は人によって解釈や方法論が異なる。

「アート作品を鑑賞し感受性を磨く」といったことも言われるが、

数枚の絵を見ただけで感受性が高まることはない。効果があった

かどうかを実感することも難しい。しかし、大いに学べることも

ある。それはアーティストの制作姿勢だ。

 

 アーティストがどのようにゼロから1を生み出しているのか。

中でも「現状破壊を恐れず、これまでありえないような形で問い

を立て、世界を変えようとしている」現代アーティストの制作姿

勢は企業が参考にできることが多い。

 

 現代アートは1950年以降の美術で、社会情勢を反映した作

品や社会に問題を提起した作品を指す。歴史や思想を踏まえ、普

遍的な美を追求したうえで、これまでになかったコンセプトや表

現を提示している点が特徴である。

 

 現代アーティストは自分の感性をそのまま作品にしているので

はない。世界の動きを時間軸と空間軸の両面でつかみ取り、表現

することで現代人に響く作品を創り上げている。これは、ビジネ

スの場で新しいコンセプトの製品を創り出すことと共通している。

 

 例えば、杉本博司氏の「海景」という写真シリーズがある。海

と空だけで他には何も写っていない。私たちが海辺で写真を撮る

時はランドマークを入れて、どこの海かがわかる構図にすること

が多い。杉本氏は「古代の人が見ていた風景を現代においても見

ることができるか」という問いを立て、海と空だけの写真を提示

した。

 

 このようなコンセプトを提示したのは杉本氏が唯一である。水

平線が画面の中央に入り、空は雲ひとつなく、海には大きな波も

ない。緊張感のある写真の美しさも格別であり、多くの美術館で

所蔵されている。オークションで約1億円で落札されたこともあ

る。

 

 作品を通じて新しいコンセプトを世界に提示するアーティスト

たちが、いかに唯一無二のコンセプトを創出し、作品に結実させ

ているのかを知ることは、ビジネスパーソンにも大きな気づきに

なる。

 

 ここで重要なことがある。「アート思考」は他のビジネスメソ

ッドとは異なり、この通りやれば結果が出るというような型は存

在しない。アーティストそれぞれが創る作品は多様であり特定の

方法などないのと同じである。

 

 しかし、制作姿勢の根底には共通点がある。「思考を飛躍させ、

斬新で世界を変えるコンセプトを創出する」「自分が創ると決

めたことは何としても実現させる」「世界観によって共感を呼ぶ」

ことである。この連載でそれぞれ説明していきたい。

 

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