森美術館で行われている「六本木クロッシング2019展:つないでみる」、
映像作品が多いのも最近の現代アートの特徴です。
そして、プログラムを使って画像を変換する
いわゆるメディアアートの作品を発表しているのが平川紀道さん。
風景写真が一瞬映ったかと思うと、その風景はバラバラに分解され、
その粒子が画面上を龍のように動き回ります。
カブリ数物連携宇宙研究機構
平川さんは、2016年に東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)にレジデンスしました。
Kavli IPMUが行うレジデンスには、
アーティストと研究者が相互交流し互いにインスピレーションを受け合うことも目的としています。
ここでは天文学、実験物理、理論物理、数学などの分野の研究者と交流することができます。
平川さんは、研究者たちと交流することで高次元の面白さを知ります。
高次元で「美」を描く
私たちは、縦、横、高さに時間が加わる4次元くらいしか次元のイメージができません。
ところが、理論物理学者にとっては、次元は単に要素の数でしかなく、
いくつでも増やすことができるのだそうです。
写真はピクセルの集合体と考えることができます。
ひとつのピクセルは、縦、横の位置と、RGBの色に分解することができ、5次元の数をもちます。
さらに時間の要素を加えて6次元の数を持たせることができます。
一方、Googleで夕日と検索すると、だいたい似たような画像が出てきます。
画像上で夕日の共通項があると考えられます。
そうであるならば、高次元に分解しても、その共通項は保たれているのではないか、
多くの人が美しいと思う写真を高次元に分解したら、「美」の共通項が保たれているのではないか、
そんな疑問を抱き、平川さんはひたすら写真を分解したといいます。
それが、今回展示されている「Datum」につながります。
高次元に分解したときに共通の「美」があるかまではわかりませんが、
そのダイナミックな映像は、写真よりもはるかに印象に残ります。
高次元にすることで、初めて表現できるようなコンセプトが伝わると、
この作品はより魅力を増すように思います。
研究機関へのアーティストインレジデンス
アーティストが科学の研究施設にレジデンスするプログラムは、
欧米では一般的になっています。
例えばロバート・ラウシェンバーグはエンジニアと協力して
Experiments in Art and Technologyを設立し、
アーティストとサイエンティストのコラボレーションを促進しました。
この成果の一つに、1970年の大阪万博での中谷芙二子と
物理学者・Thomas Meeによる「霧の彫刻」があります。
ラウシェンバーグ自身もアポロ11号打ち上げに際しNASAから招待を受け、
「Stoned Moon」のシリーズを作成しています。
オラファー・エリアソンは、MITにレジデンスした時に、
エンジニアのFrederik Ottesenと
ポータブルソーラーライト「Little Sun」をデザインしました。
これは2017年までにグローバルで66万個を売り上げ、
13万トンのCO2を削減したといわれています。
一つの事象を、アーティストとサイエンティストは別の視点でとらえます。
レジデンスで議論することで、別の視点からの情報を得ることができ、
新たなヒントになることも多いことでしょう。
アーティストとサイエンティストの交流がより活発になるように
各機関の受け入れ態勢が整うと素晴らしいですね。
なお、平川紀道さんの作品は、Yutaka Kikutake Galleryでも展示されています。
開催概要
六本木クロッシング2019展:つないでみる
会期:2019年2月9日~5月26日
会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
平川 紀道 human property (alien territory)
会期:2019年3月22日~4月27日
会場:Yutaka Kikutake Gallery
東京都港区六本木6-6-9 2F
関連リンク
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