資生堂ギャラリーで、映像作家荒木悠さんの個展が開催されています。
資生堂は今年、ギャラリー創設100周年を迎えます。
ギャラリー創設のやや前、
明治期の日本を訪れたフランス人作家、ピエール・ロティに荒木さんは注目します。
「江戸の舞踏会」と芥川の「舞踏会」
ピエール・ロティが日本のことを記した『秋の日本』、
その中の「江戸の舞踏会」の章には、
ロティが鹿鳴館の舞踏会を訪れたときのドキュメンタリーが書かれています。
そして「江戸の舞踏会」を下敷きに、
芥川龍之介が「舞踏会」という短編小説を書いています。
こちらは、ロティとダンスを踊った明子の視点で書かれた小説です。
三島由紀夫は、芥川の「舞踏会」を、「美しい音楽的な短編小説」と述べたといいます。
また、江藤淳も「この小品にもっとも愛着を覚える」と語ったそうです。
他の作家たちにも評価されたこの二つの文学作品は、その類似点や相違点が研究の対象となっています。
荒木さんの新作は、この二つの文学作品の違いを映像で表現しようという意欲作です。
多様な視点で描いた舞踏会
ロティと明子はそれぞれiPhoneを持ち、
自分は映らないようにして相手を撮るということを「美しく青きドナウ」にのせて行います。
これが、どういうわけか麗しいダンスに見えてくるから不思議です。
さらに、別の映像では、撮影監督の視点、主役の二人と監督をも入れた視点、
西洋の舞踏会シーンで使われる俯瞰、
日本映画で使われるローアングルと、多様な視点でダンスを捉えています。
視点が次々と変わっていくことでダイナミックな動きになるとともに、
近代化、西洋化を急速に進めていた日本人のはやる思いを感じます。
翻って、現在のダンスと見ると、
変化の著しい社会の中で、自分は捕まらずに相手を追い詰める鬼ごっこを
エンドレスに続けている私たちの姿のようにも見えてきます。
多様な視点で見るのは大事だけれど、
同じところをくるくる回っているだけじゃなくて、前に進もうよと言われているようです。
歴史の中のヒント
それにしても、ピエール・ロティという人物、私は全く知りませんでした。
荒木さんは、ラフカディオ・ハーンから辿り着いたと言っています。
忘れられている歴史の中にも、このようにクリエイティブのヒントは隠れていて、
その歴史のひとコマといかに出会うかで、
クリエイティブの幅が大きく違ってくることを感じた舞踏会の夜でした。
開催概要
荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ
会期:2019年4月3日~6月23日
会場:資生堂ギャラリー
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
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