大原美術館の有隣荘が特別公開されていて、宮永愛子さんの作品が展示されています。
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有隣荘は、1928年(昭和3年)に 大原孫三郎が病弱な妻を気遣い建設されました。
緑色の瓦屋根が目立つことで「緑御殿」とも呼ばれています。
この艶やかな緑色の瓦、 特殊な釉薬が使われており、堺の瓦職人が作ったと言われています。
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春と秋に2週間だけ公開され、それ以外は扉を閉ざしている建物、時の流れがとても穏やかです。
宮永さんの、透明感があり時間をテーマにした作品が、この建物にとてもよく合っています。
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洋間の中央に鎮座する白い椅子、
周りを透明な樹脂に覆われ、氷河の中から取り出されたかのよう。
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この白い椅子、有隣荘の創建時に作られ、建物とともに歴史を刻んできた椅子が元になっています。3Dスキャンでサイズを測定、そこから型をとりナフタリンで作りあげた白い椅子。
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そして覆っている樹脂には無数の気泡が入っています。
シャンパーニュの泡のように細かいものから、銀の鈴のように大きなものまで様々。
秋の光を浴びて目覚めた白い椅子の呼吸、
90年の歴史の一つ一つを思い出し、語りかけています。
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《みちかけの透き間 −waiting for awakening−》
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二階に上がるとそこは和室、両側窓になっていてとても開放的。
窓から見た景色は創建当初からほとんど変わっていないそうです。
すぐ脇を川が流れ、舟が行き交い、その向こうには白壁の蔵、
90年のさらにその昔、坂本龍馬が伏見で見ていたのはこんな景色だったのかもしれません。
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部屋の中央と壁際に置かれている数枚の陶器、
有隣荘の瓦とよく似た緑色の釉薬がかけられています。
この釉薬は宮永さん独自の調合が施されていて、器に時々ひびが入り、その時微かな音が鳴ります。
この音がとても優しく、空から降ってくるようです。
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いつ鳴るかわからないけれど
一回この音に出会ってしまうと、もう一度聴きたくなります。
私は1時間ほどこの部屋に留まり、音が降ってくるのを楽しみました。
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器をじっと見つめていてもその音には出会えず、
ただこの空間に身を委ね、心が空間と共鳴できた時に初めて出会える不思議な音。
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《そらみみみそら(有隣荘)》
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有隣荘内は撮影できないのですが、
この建物の独特の空気と宮永さんの造形が呼応し、時空間全体が作品として成立しています。
この場に入った人だけが感じることのできる作品、
しかも、ほんのわずかの期間だけの公開、秋の日の幻。
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平成29年秋の有隣荘特別公開
宮永愛子 みちかけの透き間
会期:2017年10月6日 – 10月22日
会場:大原美術館有隣荘