資生堂ギャラリーで、川久保ジョイさんの個展が行われています。
川久保さんといえば、風景写真の作品が思い浮かびますが、
今回の展示は、非常にコンセプチュアルなものになっています。
向かい合う大きな壁にシルバーで描かれた鍾乳洞のような模様。
実は壁を研磨して描いたもの。
一つは、ドル-円の為替レートの過去20年間の変動と、これから先20年後の予測。
今後、怒涛の勢いで円安が進み、1ドル 250円ほどになることが描かれています。
もう一つは日本の金利の変動、
今はマイナス金利という超低空飛行ですが、
今後は急速に金利が上昇、ついに国は国債の利息を払えなくなり、
固定金利に移行するというショッキングな姿。
自分自身もトレーダーをしていた川久保さん、
知り合いのトレーダーの予測を元に作品を創りあげました。
この作品のタイトルは、それぞれ
『Daedalus falls ダイダロスの滝/落命』
『Icarus falls イカロスの落水/水落』
イカロスとダイダロスはギリシア神話に登場する親子、
鳥の羽を蝋で固めた翼をつけ空に飛び立ちます。
ダイダロスは、イカロスに、一定の高度で飛ぶように忠告しますが、
放漫なイカロスは、太陽に近づきすぎ蝋が溶けて墜落してしまいます。
金利の変動の姿は、まさにイカロスの羽ばたきそのもの。
そして、この二つの作品に挟まれた壁には、
緑、橙、紫の鮮やかなプリントが展示されています。
福島の帰宅困難地域の地中にフィルムを3か月間置いて、
現像しプリントした作品。
残留放射線量によって色が変わります。
原子力という見えない巨大なエネルギーを可視化しようとした実験。
作品タイトルは「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば」、
「原爆の父」といわれたアメリカの物理学者オッペンハイマーが、
初の核実験を見た時に頭に浮かべた言葉。
ヒンドゥーの聖典『バガヴァット・ギーダー』からの引用だそうです。
それは、世界を破壊する神の力を手にしてしまった畏れの表現。
日本が得意技としてきた経済と技術に対して
かなり直接的な警鐘になっている作品たち。
アートとして提示されていることで、
その恐ろしさがより強烈に伝わってきます。
この世界が現実のものとなるか、別の世界を創ることができるか
私たちの行動が問われています。
展覧会の会期が終わった後も、どこかで恒久展示し
多くの人に気づきを与えてほしい作品です。
第10回 shiseido art egg
川久保ジョイ展 『Fall フォール』
2016年2月3日〜2月26日
資生堂ギャラリー