リニューアルした森美術館の最初の展覧会『シンプルなかたち展』、
色彩あふれる作品で祝祭の気分を盛り上げるかと思いきや、
ほとんどがモノトーンの立体という展示をもってきました。
昨年、フランスのポンピドゥー・センター・メスで行われた展覧会を
日本仕様に一部作品を入れ替えたものです。
石器や民俗学的な展示もあり、
ともすると博物館的で単調になってしまいがち、
キュレーションや展示方法に、
通常の現代アートの展覧会よりも工夫がいりそうです。
オラファー・エリアソンの「丸い虹」、
大巻伸嗣の「リミナル・エアー スペース-タイム」、
アンソニー・マッコールの「円錐を描く線 2.0 」
動きのあるインスタレーションがところどころに配置され、
静かな展示の中にダイナミックな光や風を吹き込んでいます。
ダチョウの卵や結晶の模型、数理模型のように
自然の摂理によってもたらされるかたち、
長次郎の黒樂茶碗のように、時代を超えて愛され続けるかたち、
シンプルなかたちは、見ていて飽きない美しさがあります。
ところが、これらはただ単に美しいだけではなく、
もっと大きな力があります。
ダチョウの卵は、完成された美しい球体ですが、
ここから雛が孵り大人へと複雑さを増すことで
種を存続させることができます。
長次郎の茶碗に魅了された多くの作家が、
これを超えようと数多のチャレンジをしてきました。
シンプルなかたちは、次の新たな創造の原動力になっているのです。
そして、もう一つシンプルなかたちが伝えているのが、
思考をシンプルにすること。
ピカソの6枚の「雄牛」、写実的な雄牛からだんだん単純化していき、
最後はたった10本ほどの線で描かれています。
でも、ちゃんと雄牛の特徴が出ているのです。
この作品は、アップルの社内教育で用いられ、
本質を保持し、不要なものをそぎ落とすことの重要性が語られるそうです。
シンプルな思考が、世界を驚かすアップルのものづくりに繋がっています。
「2001年宇宙の旅」のモノリスを思わせる
ジョン・マクラッケンの「翼」、
カールステン・ニコライのサウンドインスタレーション「アンチ」、
そしてインドのタントラドローイングと続く最終セクションは圧巻、
アートの未来へ誘う空間になっています。