ESPACE LOUIS VUITTONでベネズエラ出身のアーティスト、
ヘスス・ラファエル・ソトの「Pénétrable BBL Bleu」が展示されています。
そして、このソトの作品と比較される
「Luminal Air – Black Weight」を制作した大巻伸嗣さんと
神奈川県立美術館長・水沢勉さんのトークがありました。
彫刻は見えないものを可視化する力があり、
その時代その時代の課題を問いかける存在であることが議論されました。
「Pénétrable BBL Bleu」
ソトは、視覚的な動きを通して空間を変容させる可能性に関心を持っていたと言います。
「Pénétrable」(浸透可能なるもの)シリーズの制作は1967年に始まりました。
何百もの細い垂直な棒を空間に吊り下げて作り上げた作品、
私たちはその中に入ることができ、浸透していくのです。
「Pénétrable BBL Bleu」は回顧展のために1999年に制作された作品、
青いポリ塩化ビニルの管が天井から吊り下げられているシンプルな作品。
ESPACE LOUIS VUITTONは3方が窓になっていて光に溢れた空間、
青い物体がキラキラ輝いています。
最初は周囲を歩いてみるものの、そのうち作品の中に入ってみたくなります。
入ってみると、外の光が差し込み周りも十分見えるので
安心して作品の中に浸透していくことができます。
壁をぶち破り未来に進めるか
大巻伸嗣さんの「Luminal Air – Black Weight」は、
箱根 彫刻の森美術館で2012年に発表されました。
彫刻の森美術館にも大きな窓の部屋があり、朝日が部屋の奥まで差し込みます。
その影の部分に黒い紐を吊り下げたのが「Luminal Air – Black Weight」。
影に実体を与えた作品です。
大巻さんは、ソトの作品は光がレイヤーのように重なって、
絵画的だと言います。
「Luminal Air – Black Weight」も作品の中に入ることができますが、
黒い紐が無数に吊り下げられていて光が通らず、先を見通すことができません。
ソトの作品が私たちを呼んでいるのに対して、安易に寄せ付けない壁を感じさせます。
だから、作品の中には入らずに屈んで通る人もいたそうです。
2012年は東日本大震災の直後、
広島から受けついだ歴史があったのに、日本人は再び同じ危機に直面してしまった、
私たちはもう一度影の中から未来に立ち上がっていけるのか、
壁をぶち抜いて突っ走れるのかを
問いたかったと言います。
大巻さんは、社会と彫刻、社会と表現は密接に関わり合ったうえで
社会の実体、物質性を問わないといけない、
日常の中にあるあたりまえのことをもう一度問い直すことが必要だと考えます。
見えない空気を可視化する
彫刻の森では、「Luminal Air – Black Weight」の作品を観て上の階に行くと、
天女の羽衣のように白い布がふわふわ浮いている作品
「Luminal Air Space – Time」に出会うことができました。
この作品は、東京の森美術館でも展示された大巻さんの代表作、
その後、Louis Vuittonのファッションショーにも使われました。
軽やかに動く羽衣、そこには天使の時間が流れ
私たち人間が生きる時間とは全く違う進み方をしています。
しかし、私たちが生きる24時間の中にも、
ねじれやよじれのように不透明な存在が必ず起きていると大巻さんは言います。
ファッションショーでは、最後にモデルたちが連なってランウエイを歩いた時、
空気の流れが変わり、もう少しでモデルの頭に
羽衣がかかってしまうところだったそうです。
見えない空気の流れを可視化した作品であることがわかります。
また、この作品は、演劇の舞台芸術にも使われました。
この時は、空気も役者と同等の価値を持ったものと考え、
見えない空気を可視化して芝居に登場させたのです。
問いかける彫刻
彫刻は空気のように見えないものも可視化できるだけの力があります。
そして、物質を通してものを語り、
人々に現代の社会ならではの課題を問いかけているのです。
私たちも、彫刻の問いかけに気づく感性と覚悟を持つことができれば
よりアート作品を楽しむことができ、
社会課題へ対峙し、壁を突き破ることもできることでしょう。
大巻伸嗣さんの彫刻の森美術館での展示はYouTubeで観ることができます。
開催概要
JESUS RAFAEL SOTO – PENETRABLE BBL BLEU
会期:2018 年12月7日〜5月12日
会場:ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
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