WAITINGROOMで川辺ナホさんの個展が行われています。
メインは映像作品『Eine echte Frau löst jeden Knoten /真の女性はすべての結び目を解く』。
ドイツで出会った老婦人が、BBQ用の炭を紐を使って束ね、元の木の形に戻す様子を描いた作品です。
老婦人は、若い時に紐で郵便物を束ねる仕事をしていたので、紐を使う所作がとても鮮やかで美しい。
これだけの所作は、今の若い人たちが身につけるのは難しいと感じた川辺さんは、
映像として記録しておきたいと考え制作したものです。
大きさもバラバラで小さなかけらのようなものまである炭を紐だけで束ねていく所作はたしかに鮮やか。小さなかけら一つ残さず、一つの塊に創り上げました。
そして、この作業をしていく中で、彼女がかつて経験したベルリンの壁の話を始めますが、これが今回の展示の発端となりました。
壁ができても最初のころは市電が東西を行き来していて人々は移動することができ、
彼女はこの市電に乗って西側に亡命してきたのです。
映像作品からストーリーは2つに分岐していきます。
一つは、ベルリンの壁と市電のインスタレーション。
床に炭で描かれたベルリンの街と壁、この上を鳥の羽がくるくる回っていて炭を掃いていき、壁に穴が空いた状態になります。これが老婦人が乗った市電を表現しています。
世界に目を向けると、今も閉ざされた国境は数多く存在します。
しかし、人々はその国境を越えようともがき、どこかに穴ができるものです。
そして、宇宙船に乗って地球を眺めれば、閉ざされた国境もほんの小さな存在にすぎません。もう一つのストーリーは、この宇宙に視点を広げた「アポロ計画」。
アポロ計画もベルリンの壁も共に1961年に始まりました。
アポロ計画で使用されたコンピュータには、ロープコアメモリが使われました。
磁石を通した銅線を基盤に縫い付けたものであり、この作業はもっぱら女性の仕事でした。
人類を月に送るという壮大な計画を支えていたのは女性工員たちでした。
ベルリンの壁とアポロ計画、その印象は全く異なるけれど、その根底にはともに東西冷戦があります。
老婦人の所作から始まり、2つの歴史へ展開させた川辺さんの作品
どれもとても静かで美しい作品だけれど、多くのことを語ってくれています。
川辺ナホ『Save for the Noon / 昼のために』
会期:2018年10月27日〜11月25日
会場:WAITINGROOM