生命体への挑戦 – ジャコメッティ展

ジャコメッティ

国立新美術館でジャコメッティ展が開催されています。
おなじみの細長く引き伸ばされた彫刻が50点あまり、
さらに素描と版画が約80点展示される大回顧展。

このジャコメッティの彫刻
あの細さでは、とても心臓や胃など内臓が入るスペースはありそうもない。
人間とは非なるもの、人工生命体と考えてみてはどうだろうか。

しかもゴツゴツした有機的な表情はロボットではなく、
遺伝子工学で造られた人工生命体がよく似合う。
生命力を維持した細い構造の追求。

反応液の中で誕生した生命体が、外に這い上がる時に余分な細胞の塊を落とし、
必要最小限の構造になったイメージ。

ジャコメッティ

ジャコメッティが立像を作り始めた当初は、わずか2-3 cmの小像だった。
スモールスケールで反応条件を決めるのは生命科学の鉄則。
でも一寸法師のような生命体ではちょっと物足りない。
人間の大きさに近づけたい。
そこで1 mの高さという条件を設けたところ、どんどん細い姿へと進化していった。
細い構造でも生命の持つ躍動感は十分感じられる。

最終的には、チェース・マンハッタン銀行のプロジェクトの3 mを超える女性立像に到達。
この巨大生命体を手にすれば、世界征服も夢ではない?!

ジャコメッティ

1956年のヴェネチア・ビエンナーレ、
ジャコメッティが創造した生命体を披露する最高の場となった。
一つの骨組みから15体の石膏像を作り、そのうちの9体をブロンズで鋳造、
「ヴェネツィアの女」の誕生だ。

9体並んでいると圧倒されるが、まさにクローンへの挑戦だ。
ところが、全く同じものを9体作っても面白くない。
お尻や胸の膨らみがちょっとずつ違っていて、個性を出しているところがにくい。

彫刻よりも多く展示されているのが素描と版画。
ダイナミックな線で描かれた素描がまた素晴らしい。
これは生命体を創るためのアイデアスケッチ、
いつも生命体への挑戦を思考していたことがわかる。

ジャコメッティは、「芸術と科学はすなわち理解しようと努力することだ」と述べ、
さらに完成不可能性(non finible);創造、変更、破壊を含んだ絶えざる循環ということを言っている。
彼の挑戦は、人間という生命体を理解し、新たな構造を創造することだったに違いない。

 

国立新美術館開館10周年  ジャコメッティ展
2017年6月14日 – 9月4日
国立新美術館