横浜美術館で「メアリー・カサット展」が行われています。
日本では35年ぶりの開催。
母子を描いた作品にあふれた展示ですが、
そこには新しい生き方、新しい表現を追求し続けた
アーティストの姿があります。
メアリー・カサットは、1844年米国ペンシルバニア州に生まれ、
21歳の時に本格的に絵画を学ぶためにパリに渡ります。
印象派が誕生する直前のパリ、
サロンに出品されるポートレイトは、ただ前を向いている姿を描いていました。
ところが、「刺繍するメアリー・エリソン」の刺繍をするポーズ。
カサットは、女性たちの日々の生き生きとした姿を表そうとしたのです。
その究極が、10点組の多色刷り銅版画。
湯あみ、オッムニュビスにて、手紙、仮縫い、沐浴、母のキス、
母の愛撫、午後おお茶会、髪結いと、
パリの女性の生活を軽やかに切り取っています。
この銅版画は、1890年に開催された「日本版画展」に出展された
浮世絵に感銘を受けて制作したと言われ、
どことなく東洋の女性の雰囲気が感じられます。
10点勢揃いすることは非常に珍しいそうです。
1892年、カサットは、シカゴ万国博覧会の女性館のために
「現代の女性」をテーマにした壁画を制作しました。
壁画は現存しませんが、同じモチーフの作品があります。
子供を抱きかかえ、リンゴをとらせようとしています。
リンゴは、アダムとイブが食べた禁断の果実で「善悪の知識の木」、
この絵には子供に知識を授けるという意味を持ち、
新しい女性の象徴となっています。
今回の展示では、シカゴ万博のもう一つの壁画に「原始の女性」を描いた
マクモニーズの作品と並んで展示され、その対比がよくわかります。
右)メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズ、そよ風、1895年、テラ・アメリカ美術基金
左)メアリー・カサット、果実をとろうとする子ども、1893年、ヴァージニア美術館
また、日本初公開の代表作「桟敷席にて」。
当時、女性は男性から見られることを意識して華やかなドレスに身を包んで
劇場に足を運びました。
ここに描かれた女性は黒いドレスを着て、
自分が舞台を観ることを宣言しているかのような強さを感じます。
左)メアリー・カサット、桟敷席にて、1878年、ボストン美術館
カサットは、アメリカの美術品コレクター、ハヴマイヤー夫妻が、
印象派の作品をコレクションする際のアドバイザーも務めました。
後に、このコレクションがメトロポリタン美術館に収蔵され、
アメリカに印象派が紹介されることになります。
数々の女性の姿の中に、
新しい時代を築こうという志を観ることができる展覧会です。
メアリー・カサット展
2016年6月25日〜9月11日
横浜美術館
*会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。