瞬間の哲学 − 塩田千春『State of Being』

塩田千春

Art Basel香港、アートフェア東京、
続けて行われた2つのアートフェアで出展されていた
塩田千春さんの糸を使った作品
『State of Being』

スパイダーマンのハンモック、
あるいは神経ネットワークのように
無数の赤い糸が張り巡らされた空間、
この中に女の子のドレスが閉じ込められています。

糸に包まれたドレスは、
宙に浮き、膨らみをもっていて、
そこにドレスを着た女の子が立っている気配さえ感じられます。

なんとも不穏な美しさに一目で人の心をとらえる力があって、
塩田さんは「瞬間の哲学」と言っています。

このドレスは、かつて誰かが実際に使っていたもの。
赤い糸は、ドレスを着ていた女の子と家族、友達、周りの人とのつながりや
ドレスと女の子がたどってきた歴史を表現しているように見え、
作品の実際の大きさをはるかに超えるエネルギーを放っています。

メッセージにあふれた作品を創造する思考と実現させる技術はとびきり。

香港で出品されていた作品は、
黒い糸に鳥の剥製が包まれています。
鳥が自ら巣作りをして、いまにも飛び出しそうな躍動感があります。

塩田千春

塩田さんは2015年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館を担当します。
『掌の鍵』というタイトルで、
5万本の鍵を赤い糸で結び天からつるすことを考えています。

もちろん誰かが使っていた鍵。
鍵は、手を使って開け閉めを行うもの、
そして、大切な人に手渡されたもので、
ぬくもりや心が感じられる素材。
どこの国の人も持っている普遍的な素材でもあります。

5万本の使い古された鍵が、未来の大きな扉を開く
そんな壮大なメッセージが伝わる作品になると素晴らしいですね。


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