横浜美術館の展示にみるアーティストの世界観 – 横浜美術館、「アートと人と、美術館」

今津 景

 

横浜美術館30周年記念の展覧会「アートと人と、美術館」が開催されています。

美術館全館を使って、コレクションを紹介する展覧会。

通常だと美術館のキュレーターがどの作品を展示するかを決めます。

今回の展覧会は全部で7章の構成、

そのうち3章はキュレーターが選んで展示しています。

残りは、4人のゲストアーティスト(束芋さん、淺井裕介さん、今津 景さん、菅 木志雄さん)

1章ずつ担当し、自分の作品とコレクションから選んだ作品を組み合わせて展示、

それぞれのアーティストの世界観を感じることができます。

 

シュールレアリズムと今津 景

中でも今津 景さんの展示が面白いものでした。

部屋の一番奥に自分の巨大なペインティングを設置、

手前の空間にシュールレアリズムの彫刻たちを散りばめています。

 

この部屋に一歩足を踏み入れると、神殿に入り込んだような異次元の感覚になります。

 

今津 景

 

今津さんの作品のモチーフは、破壊されたり、略奪されて行方不明になってしまった美術品が有名です。

インターネットでこれらの画像を集め、今はないことを、大胆なストロークで表しています。

今回展示されている「Repatriation」は、

ギリシャのアクロポリスミュージアムの空間と展示作品をモチーフにしているとのこと。

この美術館は、イギリスによって持ち去られた彫刻作品を受け入れるために建設されたものです。

まさに神殿を感じさせるモチーフで周りを囲む彫刻たちともとても相性がいいのです。

 

シュールレアリズムの作品たちもこの空間に配置されたことで

新しい魅力が引き出されています。

常に美術品のモチーフを集めている今津さんならではの視点と世界観ですね。

 

いのちの木

淺井裕介さんは、円形の部屋の壁全体を使って得意の泥絵を制作しました。

いつもは部屋全面を泥絵でいっぱいにする淺井さんですが、

今回は動物や植物、鳥などをモチーフとしたコレクションも配置しています。

壁画のタイトルは「いのちの木」

古今東西の生き物たちを描いたアート、いのちの木に生き物たちが集い、

楽園を楽しんでいるようです。

私たちもこの空間に入ると、あふれる生命の躍動を感じとても元気になれます。

 

淺井裕介

 

淺井裕介

環空立

菅木志雄さんの「環空立」

1999年にここ横浜美術館で開催された個展で出品した作品、

20年を経て再制作されました。

板を組み合わせてキューブを作っていますが、サイズがでかく

展示室の外にまで飛び出していて、清々しい勢いを感じます。

 

菅さんの作品はミニマルでエネルギーにあふれているので、

やはり単体で存在しているのがいいですね。

 

菅 木志雄

 

菅 木志雄

自分の作品と他の作品を組み合わせ価値を創造する

横浜美術館のコレクションは全部で1万2千点。

誰が選んでも違うコレクション展になると思いますが、

アーティストが自分の作品と組み合わせるという観点で選び展示すると、

それぞれの世界観が表れていて見応えがあります。

 

他の人が創った作品を選び、自分の作品と組み合わせるというのは、

アーティストにとっても思考力が問われることだと思います。

他の作品が加わることで、今までとは違う新しい世界観を創ることができるかが問われます。

 

異質なものを組み合わせて新しい価値観を創造することの面白さを見せてくれる展覧会です。

 

開催概要

横浜美術館開館30周年記念 「アートと人と、美術館」

会期:2019年4月13日~6月23日

会場:横浜美術館

   神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1 

 

関連リンク

横浜美術館

今津景

淺井 裕介

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