弊社代表の長谷川一英が担当しています、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科「イノベーションとアート」の12月9日(火)の授業において、現代アーティストであり、研究者・教育者としての顔も持つ村山悟郎氏をお招きし、「創造性の源泉を探る」をテーマにご講演いただきました。
本講義では、村山氏の新著『東大「芸術制作論」講義』(フィルムアート社)にもとづいて、代表作である「織物絵画」の制作プロセスから、AIとの共進化に至るまで、創造性が一部の天才による「閃き」ではなく、意識的なプロセスの設計と技術によって育まれるものであることを解き明かしていただきました。

- 「絵画」という前提の解体
村山氏の創作は「なぜ絵画は四角いキャンバスでなければならないのか?」という、既存のフレーム(枠組み)への根源的な問いから始まります。既製品のキャンバスを否定し、麻紐から自らの手で「織る」ことで支持体を作り出し、そこに描く。「形(フレーム)」と「内容(絵)」が同時に生成されるそのプロセスは、植物の成長のような時間的要素を絵画に取り込む、極めてラディカルなアプローチでした。
- エラーを「創発」に変える技術
特にビジネスパーソンにとって大きな示唆となったのは、「エラー(失敗)」の捉え方です。
制作過程で起きた「織り忘れ」というエラーに対し、村山氏は計画を修正するのではなく、プロセス自体を変更することで、当初の想定を超えた「多層的な立体構造」という新しい表現を生み出しました。「新しいものを生み出すためには、新しいプロセスが必要である」。意図せぬエラーこそが自己規定の枠組みを破壊し、未知の領域を開く鍵になるという視点は、イノベーションを目指す私たちに勇気を与えるものです。
- AIとの共進化と実践的フレームワーク
講義の後半では、AIと人間の認識のズレ(落差)から新しい問いを見出す視点や、自身の制作データをAIに学習させ、思考のバイアスを乗り越えるための「ライバル」として共存する「共進化」の可能性について議論が展開されました。また、異質な要素を組み合わせる「マイクロエマージェンス(小さい創発)」や、思考の手順を予期して飛ばす「リズムの変容」など、明日から使える実践的な思考フレームワークも紹介され、受講生たちは熱心にワークショップに取り組みました。
本講義を通じて、受講生は「何を(What)」作るかという結果以上に、「いかにして(How)」生まれるかというプロセスを設計することの重要性を学びました。
ビジネスにおける常識や既存の枠組みを疑い、思考のプロセスそのものをリデザインする村山氏の姿勢は、まさに本授業が目指す「アート思考によるイノベーション創出」の核心に触れるものでした。
なお、本講義の概要の記事を、noteとNewsPicksに掲載しました。
【掲載記事】
「四角いキャンバス」を疑え。アーティスト村山悟郎氏に学ぶ、ビジネスの常識を覆す5つの思考
