JBpressが運営する「Japan Innovation Review」の「良書抜粋」で、『「アート思考」の技術』第5回の記事が公開されました。今回は、「ベル研究所、ヤマハが導入するアーティスティック・インターベンションとは? 常識を覆し、組織を変革するために、なぜアーティストの力が必要なのか」というタイトルで、組織にアーティストを迎えて変革を促すアーティスティック・インターベンションに焦点をあてています。
アーティスティック・インターベンション
アーティストは、自分の関心・興味を起点にリサーチを重ね、根本から考えることで、革新的なコンセプトを創っています。アーティストが企業などの組織に入ると、その企業の人たちには当たり前のことにも疑問を呈することで、組織変革を引き起こす可能性があります。また、アーティストの介入によって生まれた革新的なコンセプトがイノベーション創出につながると期待できます。
アーティスティック・インターベンションは欧米で盛んに行なわれています。イノベーション創出や企業変革を目指している経営企画や新規事業部などの皆さんには、このような試みもあることに気づいていただければと思います。
ベル研究所におけるアーティスティック・インターベンション
1925年、米国ニュージャージー州にAT&Tが設立したベル研究所は設立以来、最先端の技術開発を行なってきました。代表的なものに電波望遠鏡、トランジスタ、レーザー、情報理論、UNIXオペレーティングシステム、C言語などがあります。
1950~1960年代、ベル研究所にアーティストが滞在するようになります。そして、テクノロジーを通じて芸術活動を支援すること、芸術生産を通じて科学技術のもつ本来的な性質や方向性を検証し、従来の科学的なシステムの批判・脱領域化を図りました。
2015年から、ベル研究所はノキア社に所属しています。一度途絶えたアーティスティック・インターベンションが再開されています。その目的は、基本的な話し言葉や書き言葉を超えた高次のコミュニケーションを可能にするという非常にイノベーティブなものです。
ベル研究所に滞在しているアーティストたちには、スタジオスペース、科学者やテクノロジーへのアクセスが提供されます。アーティストは、関心があるプロジェクトのメンバーとなって会議に参加できるのです。
ヤマハ「TENORI-ON」の開発
2007年に発売された電子楽器「TENORI-ON」は、ヤマハ株式会社とメディアアーティストの岩井俊雄氏(1962-)とのコラボレーションによって開発されました。25×25センチメートルのアルミフレームの中に並んだ256個のLEDボタンを自由に押すだけで、さまざまな音楽を演奏/記録することができる次世代音楽インターフェイスです(現在は生産終了)。
開発は、岩井氏がソフトウェアを、ヤマハがハードウェアの開発を担当しました。岩井氏が感覚で、音や光がこんなスピードで広がると気持ちがいいと提案しました。ヤマハの開発部隊が、岩井氏の感覚を数値化して、仕様を作っていきました。
「TENORI-ON」は、音が鳴るとともにボタンが光るので、音の広がりを可視化できるのが大きな特徴です。そのため、プロのミュージシャンたちも「光で演奏を見せられる楽器」として支持してくれて、コンサートなどで使われました。通常、楽器は弾けるようになるまで、かなり練習をしなければなりませんが、「TENORI-ON」は、楽器を弾く技術や素養は全く必要なく、自由に作曲できるので、楽器に縁のなかった人にも楽しんでもらうことができました。
このプロジェクトの特徴は、アーティストのアイデアを全面的に受け入れて、企業は、自分がもつ技術で製品化を推進したところです。これまでにない楽器、誰もが作曲を楽しめる楽器、演奏を可視化できる楽器を創りたいという意志をアーティストと企業とで共有できていたことが、プロジェクトの成功に導いたのです。
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