最近はホテルのロビーなどでアロマが使われることが多くなりました。
嗅覚は五感の中でも感情や記憶にダイレクトに繋がっている
原始的な感覚と言われています。
香りマーケティング
ホテル内で無意識に触れた心地よい香りの記憶は脳内にとどまり続け、
どこかで同じ香りに出会うと、そのホテルのことを思い出します。
そこでホテルはそれぞれ独自の香りを作り、
ロゴマークなどと同じようにマーケティングツールとして活用しているのです。
しかし香りは目に見えないので、他の人と共有するのが難しいのです。
香りを表現する源氏香
かつて日本では、目に見えない香りを図形や文学と結びつける組香が行われていました。
その代表的なものが源氏香です。
源氏香では5種の香木をそれぞれ5包ずつ(計25包)用意し、
その内の5包を順番に炊いていきます。
一炉聞くたびに右から左に縦線を引いていき、同じ香だと思ってものの
縦線を横線で結びます。
全部で52通りのパターンがあります。
源氏物語は54帖ですが、最初の「桐壺」と最後の夢の「浮橋」を除いて
52の巻名と図形とを対応させたものが源氏香之図です。
自分が書いた図形から巻名を答え、合っているかどうかを競う遊びです。
この遊びは、見えない香り、即ち抽象的な感覚を
具体的な文学で共有することができるわけです。
図形だけでも答え合わせはできますが、まだ抽象度が高く
文学にまで持っていくことで、話が盛り上がるでしょうし粋を感じます。
一方の図形の方は抽象度が高いので、意匠として使われている場合もあります。
意匠としての源氏香之図
6月2日までサントリー美術館で開かれていた「information or inspiration?」
ここで展示されていた「薄蝶螺鈿蒔絵香枕」
江戸時代の作で、髪に香りを炊きこめるためのもの、
源氏香之図に似た模様の部分から香りが出てきます。
この作品は蝶の部分に螺鈿が使われていて華やかに見せています。
また、東京都庭園美術館の旧朝香宮邸のラジエーターにも使われています。
シンプルな図形なので洋館にも似合いますね。
アートとしての源氏香之図
そして、昨年、舘鼻則孝さんが開催した「香りの日本文化」という展覧会では、
源氏香之図が重要なモチーフになっていました。
日本文化を新たな視点で捉えた印象的な展示でした。
香りを表現する
いまや香りマーケティングはビッグデータを活用して、
その場所にふさわしい香りを演出する時代、
アートや文学と関連づけて表現することで
他の人とも香りの体験を共有できるようになると
もっと豊かな社会になるに違いありません。
開催概要
サントリー芸術財団50周年
nendo × Suntory Museum of Art
information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美
会期:2019年4月27日〜6月2日
会場:サントリー美術館
舘鼻則孝と香りの日本文化
会期:2018年9月14日〜9月16日
会場:旧山口萬吉邸
関連リンク
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