銀座のメゾンエルメスはレンゾ・ピアノの設計、
その建築は、全面428 mmのガラスブロックで造られた特徴的なものです。
そのガラスの壁面に巨大な絵が描かれています。
パリを拠点に活動している湊 茉莉さんの作品。
彼女は、抽象的なモチーフを建物に直接描くことをしています。
そして、メゾンエルメスフォーラムでも、彼女の作品が展示されています。
ガラスの器の歴史
壁に描いた赤の光が室内にも映し出され、展示している作品と呼応しています。
ガラスの壁ならではのマジック。
壁に描いた作品のタイトルは「UTSUWA(器)」、
人類の歴史でガラスといえば器、エジプト、メソポタミアでは、
紀元前16世紀ごろには既にガラスの器を作っていたと言われています。
人類の文明を表現した作品です。
文明のスケッチ
室内の展示も古代文明から日本の桂離宮までの人類の営みを描いています。
彼女の特徴はスケッチ、
文明に関わる物事や歴史上の物事など、ひたすらスケッチして蓄積し、
その中から作品を構成していきます。
いわば、自分の中で歴史を再構成していると言えるでしょう。
古代文明において重要だったモチーフを、巻物のように布に描いた「方丈・ながれ」
非常にシンプルなモチーフで、壁画のようにも見えるし
出土したもののようにも見えます。
維摩経と方丈
タイトルの方丈とは、約3 m 四方の空間のこと。
『維摩経(ゆいまぎょう)』「不思議品」で、問疾に訪れた文殊菩薩(もんじゅぼさつ)をはじめとする8000人の菩薩や500人の声聞(しょうもん)たちを、維摩居士(こじ)が、神通力(じんずうりき)をもって一丈(約3メートル)四方の小室に招き入れたという故事による。
(日本大百科全書)
この話から、仏教においては方丈に全宇宙が内在すると考えらえるようになり、
住職の住む建物を方丈と呼ぶようになったと言います。
その維摩経のリトグラフも展示されています。
いくつかの言葉で描かれ、経典が伝播したようすが感じられます。
観月の空間
リトグラフが置かれたスペースには、「ツキヨミ」というインスタレーションがあります。
彼女は京都の出身ですが、京都での観月の名所・桂離宮の古書院を
抽象的に表現した作品です。
銀箔やアルミ箔でパネルを装飾し、光あふれる空間になっています。
経典が日本に辿り着くまでに、多くの時間が経過し時代が進んだことを表現しているように思えます。
スケッチの展開力
スマホで簡単に写真を撮れるようになり、
私たちはなんでも写真に記録するようになりました。
ところが写真には非常に多くの情報が記録され、
抽象度を上げて再構成しようと思うと結構大変な作業になります。
湊さんのスケッチは、かなりラフで最初から抽象度が高くなっているので、
共通点や相違点を探して、再構成するのに適しているように思います。
小さなスケッチから、大きなインスタレーションを創り、
さらにビルの壁全体を覆う絵まで創ってしまう
スケッチの展開力を実感できる展覧会です。
開催概要
湊茉莉「うつろひ、たゆたひといとなみ」
会期:2019年3月28日~6月23日
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1 8階
関連リンク
メゾンエルメス(Maision Hermes)~レンゾ・ピアノの建築
風と記憶 – ミルチャ・カントル 『あなたの存在に対する形容詞』