ShugoArtsで米田知子さんの個展が開かれています。
米田さんは、過去に事件などが起きた場所を訪れ写真を撮影しています。
出来るだけ客観的な視点で撮影していて、とても静謐な写真、
少しの空気の流れも音さえも消されたかのようです。
作家の主観が入っていないので、鑑賞者それぞれが自由に解釈することができます。
これが米田さんの作品の面白いところです。
「アルべール・カミュ」波乱の人生
今回米田さんが取り上げたのは「アルべール・カミュ」。
私にとっては、『異邦人』の作者ぐらいしか知っていることはありません。
ところが、ヨーロッパの戦争に翻弄された波乱の人生がありました。
カミュは、1913年に仏領アルジェリアで生まれています。
フランスは古くからアルジェリアを支配し、北アフリカの拠点としていました。
フランス本国からの入植者も多く、カミュのお父さんも入植者の一人でした。
第一次世界大戦が始まるとお父さんは出兵、戦地で亡くなってしまいます。
後年、カミュが父の墓を訪れた時、
その時のカミュの年よりも早く死んだ父を思い悲しみにくれたと言います。
第二次世界大戦の時には、パスカル・ピアの助けでパリの出版社で働きます。
しかし、ナチスドイツがパリを占拠すると、ほどなく失業、
妻の実家に身を寄せ、そこで、『異邦人』『シーシュポスの神話』『カリギュラ』の三部作を完成。
パリ解放後、アングラ紙だった『コンバ』を公刊し編集長となります。
この時書いた『犠牲者でもなく執⾏⼈でもなく』のエッセイに惹かれ、
米田さんは今回の企画を考えついたそうです。
基本的に暴力を否定していたカミュ、
故郷のアルジェリア独立戦争時も、態度をはっきりさせず批判を受けることになります。
一方、1956年には、戦後最年少でノーベル文学賞を受賞、
その4年後、交通事故で亡くなってしまいます。
なぜ今カミュなのか?
このような波乱の人生だったカミュですが、
その足跡を辿り撮影した米田さんの写真はやはり静謐そのもの。
静謐さゆえに、逆に不穏なものが隠れているように感じます。
サスペンス映画の冒頭のシーンのよう。
カミュという名前も不思議、
なぜ今、米田さんがカミュを題材に選んだのか、
どんな展示になっているのか、
名前に引き寄せられる何かがあるようです。
パリではノートルダムが火災に包まれ、波乱の予感。
カミュの著作に立ち返るべしと天の声が語りかけているのかもしれません。
開催情報
米田知子「アルべール・カミュとの対話」
会期:2019年4月13日〜5月25日
会場:ShugoArts
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
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