ポーラ美術館の現代美術展示スペース「アトリウム ギャラリー」で
HIRAKU Project、大山エンリコイサムさんの「Kairosphere」が行われています。
クイックターンストラクチャー
大山さんはニューヨークを拠点に活動しています。
グラフィティの文字から発展させた「クイックターンストラクチャー」と呼ぶ
独自のパターンを使った作品を制作しています。
今回は、縦 244 cm、横 914 cmという
過去最大の「クイックターンストラクチャー」の作品が展示されています。
クイックターンストラクチャーは白黒で描かれていることが多いのですが、
この作品は黒-黒、片方の黒は一回ヤスリがけして質感を変えています。
円弧も描かれていて複雑なラインで構成され、黒が多いので重厚感があります。
Kairosphere
展覧会のタイトル「Kairosphere」、聞きなれない言葉ですが大山さんの造語、
「Kairos」は時間、「sphere」は空間を表すと言います。
時間といっても、あることに没頭しているとあっという間に時間が過ぎてしまうような
内面的な時間を意味します。
「sphere」は、空気が膨らんだりしぼんだりする流動的な空間を意味します。
「Kairosphere」は、アーティストの作品制作を表していると言うことができます。
作品と作品は全く独立しているわけではなく、継続しているものです。
今回は、最新作とともに大山さんのターニングポイントとなった過去の作品が展示されています。
高校・大学時代に描いていたスケッチブック、
グラフィティからクイックターンストラクチャーが誕生する過程が残されています。
クイックラーンストラクチャーはモノクロで描いていますが、このスケッチブックはとてもカラフル。
グラフィティは色にも個性などの意味がありますが、
クイックターンストラクチャーは徹底的に意味を排除しているので、色も除かれたことがわかります。
大山さんは高校を卒業する時に、学校の壁に絵を描こうとしました。
先生から、ちゃんとプロポーザルを出して承認されたら描いていいと言われ、
企画書を提出、社会的契約に基づいて公共空間に描いた初めての作品になりました。
当時の写真と、現在の映像が展示されています。
そして大学院の卒業制作で透明のアクリル板に描いた白いクリックターンストラクチャー、
壁に描かれたグラフィティは立体感がありますが表から見た時のことしか考えられていません。
そこで、透明のアクリル板を用いることで、裏から見ても立体感が出ることにチャレンジしたものです。
最後が美術館の大理石の壁に描いたクイックターンストラクチャー。
制作時期も違いますが、表現もキャンバス、紙、写真、映像、アクリル、大理石と全て違うものです。
グラフィティと越境
グラフィティは元々ニューヨークの地下鉄に自分の名前を描いたことから始まりました。
ニューヨークは地域によって住んでいる人、文化が大きく異なります。
個人からすると、訪れることのない地域も多いのですが、
地下鉄に描かれた名前は、どんな地域にも越境していきます。
クイックターンストラクチャーも越境する存在
どんな支持体にも侵入していきます。
支持体が違うと使うメディウムも技法も異なってくるので、
制作の幅も広くなるに違いありません。
越境という冒険
現在、産業界でも越境人材が求められています。
一つの領域を極めるのも大変なのに、
隣の領域にまで行くことを促されてもそう簡単に行けるものではありません。
しかし、一度侵入してkariosphereを体感すると、
そこから先は空気のように自由に行き来ができるようになれることでしょう。
開催概要
HIRAKU PROJECT VOL.8
大山エンリコイサム Kairosphere
会期:2019年3月23日〜7月28日
会場:ポーラ美術館 アトリウム ギャラリー
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
https://enricoisamuoyama.net/top
Takuro Someya Contemporary Art
描線の強さ – 大山エンリコイサム『Present Tense』