意図を超える – 毛利悠子『グレイ スカイズ』

毛利悠子

藤沢市アートスペース毛利悠子さんの個展が行われています。
藤沢は毛利さんの出身地。
湘南は青い空というイメージが強いのですが、
若い日の毛利さんにとって、この街は灰色が印象的でした。
自分自身も将来について白黒はっきりしていなかった時代、
灰色は多くの可能性を秘めたとても豊かな色であることに気がついたと言います。
そして、灰色を展覧会のタイトルとしました。

タイトルを象徴する作品が「パレード(旧名:大船フラワーセンター)」
2011年発表の作品を再構成し、ナトリウムランプを使って作品がグレイに見えるようにしています。

廃校になった小学校の道具を配置し、楽器としての役割を持たせています。
そして、花柄の壁紙を楽譜に見立て、柄の濃淡をセンサーで感知し道具を動かしています。
自分で作曲したりプログラミングしたりするのと異なり、偶然の音楽が生まれます。

毛利悠子

このコンセプトは、部屋に置かれていた家具をそのまま五線譜にドローイングして作曲したエリック・サティを引用していて、タイトルの「パレード」は、サティのバレエ曲からとっています。

毛利悠子

毛利悠子

レジデンスルームでは、新作「モレモレ:ヴァリエーションズ」を展示しています。

東京は地下水が上昇していて、あちこちで水漏れが起きています。
それに対し、各駅では身近にある傘などを使って対処していますが、毛利さんはその造形がアートになっていることに気づき、「モレモレ東京」として画像を収集しています。

人間は、緊急時にはクリエイティビティを発揮すると考え、
水漏れを修復するワークショップを行なっていますが、「モレモレ:ヴァリエーションズ」もその一つです。
参加した人たちのアイデアを実現していて、毛利さんの思いもよらぬものにあふれています。
太鼓を鳴らす仕組みなど、とても秀逸です。

毛利悠子

毛利悠子

出来上がった作品は、タンクから出た水がちゃんと一回りしてタンクに戻って来ています。
しかし、このように循環させるには試行錯誤が必要で、その過程では水浸しになることも度々。

バランスがとれ循環している姿は、苦闘の過程を微塵も感じさせず、整然としてとても美しい。

毛利さんは、マルセル・デュシャンの大ガラスの作品を観て、
花嫁と独身者との間に欲望というエネルギーが循環していると捉え、エネルギーの循環を表現した作品を創ろうと考えました。

地球レベルで見ると、太陽エネルギーを得て水が大きく循環していて、その水を得て生命が循環しています。そして人間によって生み出されたクリエイティブな作品、
哲学の始祖タレスが語った「万物の始原は水である」を思い起こさせます。

毛利悠子「グレイ スカイズ」
2017年12月2日〜2018年1月28日
藤沢市アートスペース