TARO NASUで、フィリピン在住のアーティスト、
ポクロン・アナディンの個展が行われています。
展覧会のタイトル『Sidereal Message』は、ガリレオ・ガリレイが
1610年に発表した書物のタイトル、日本語訳は『星界の報告』。
オランダで発明された望遠鏡を基に、自らも望遠鏡を作成し、
月や木星を観測した記録。
この展覧会は、ポクロンの独自の視野で切り取った社会の姿が描かれています。
作品の一つに、ガリレオの『Sidereal Message』をタガログ語に訳し、
おばあちゃんに読んでもらったオーディオレコーディングがあります。
おばあちゃんは、最初は原稿を読んでいましたが、
途中から、フィリピンとカナダの比較を話し出したそうです。
望遠鏡で自分が観測したい天体に視野を絞って光を集めることで、
肉眼では見えない世界を見ることができるようになります。
しかし、自分の持つ望遠鏡の方向が違えば、
話す対象がずれていくことを表現しているかのようです。
メインの作品の名前は「無名のオーケストラ」。
壁一面に画像が投影され、スライドショーになって流れています。
この作品では、代々木公園の幅の広い階段に視野を絞っています。
階段を上り下りする人たちをじっと観察していると、
並行する階段のラインが五線譜に、歩いている人が音符のように見えてきます。
そこで、いろいろな人を階段に立たせ、顔の前に鏡を持ってもらって撮影、
鏡が光るので、まさに音符のように弾けています。
しかも音に反応して画像が切り替わる仕組みも取り入れていて、
鑑賞者が音楽を演奏すれば、楽譜をめくるようにシーンが流れていきます。
この美しさと洗練されたコンセプト、
実際にギャラリーで味わってほしいと思います。
「無名のオーケストラ」は、
ポクロンの代表的な「Counter Acts」シリーズの一つでもあります。
ポートレートでありながら顔が見えないため、
アイデンティティが欠如していて、現代社会を表現していると言われています。
しかし、ガリレオは2ヶ月間木星を観測して、4つの衛星があることを発見しました。
視野を絞って観測することは、アイデンティティを見つける作業に他なりません。
「無名のオーケストラ」も、観測を続ければ、
柔らかな音色を奏でそうな人、力強い音を出しそうな人といった
特徴が見えてくるのではないでしょうか。
この作品を鑑賞するには、そこまで感覚を研ぎ澄ませたいものです。
ポクロン・アナディン『Sidereal Message』
2016年2月26日〜3月26日
TARO NASU