日産アートアワード2015のグランプリに毛利悠子さんが選ばれました!
おめでとうございます。
アワードのファイナリスト7人の新作展が、
BankART Sutido NYKで行われています。
毛利さんが発表したのは、『モレモレ:与えられた落水#1-3』
毛利さんは、都市で密かに起きている現象や
人々が気付いていない歴史などに目を向け、
そこで発見した出来事を作品に展開しています。
そんな作品の一つに『モレモレ東京』があります。
東京の地下鉄の駅は、かなりの頻度で水漏れが発生しています。
高度成長時代に大量の地下水をくみ上げていましたが、
地盤沈下が起きたことを契機に、規制されるようになりました。
そのため地下水の水位が上昇し、漏水が起こるようになったのです。
駅での水漏れは乗客に影響が出るので、駅員さんが速攻で応急措置をとります。
身近にあるビニールや折れた傘やペットボトルなどを使って
漏れた水を排水溝に導いています。
毛利さんは、システマティックにできたスクエアな駅の中に
突如出現した有機的な線を彫刻的と感じ、
2009年から応急措置の様子を写真に撮りためています。
人類学者クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)が、本来の用途とは関係なく
当面の必要性のために道具を作ることを「ブリコラージュ」と呼びましたが、
『モレモレ東京』は、まさにブリコラージュ。
ブリコラージュはエンジニアリングと対比され、
人類が古来から持っている知といわれています。
そして、芸術の分野では、ブリコラージュは、
その場にある様々なものを使って作品を創る手法を指します。
毛利さんは、『モレモレ東京』を自ら再現、
3つの枠を用意し、上から水が落ちるようにして、身の回りにあるものを使って
水が循環するように作品をくみ上げました。
制作途中は、床が水浸しになって大変だったそうですが、
完成した状態では、一滴も床にこぼれる水はありません。
一見アートのようには見えませんが、
自転車のスポークに一定量の水がたまると、回転して鹿威しのようになり、
チャイムがなったりします。
水は透明で動きがわかりにくいのですが、
このような仕掛けがあることで、
ダイナミックなインスタレーションになっています。
そして、制作に用いた大きな枠は、
マルセル・デュシャン(1887-1968)の
『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』
(通称・大ガラス)の枠の大きさと同じになっています。
大ガラスはフィラデルフィア美術館に設置されていて、
ガラス越しに噴水を見ることができるそうで、
大ガラスのオマージュにもなっています。
幾重にもコンセプトが重ねられた作品、
アワードにふさわしいですね。