10月31日から森美術館で始まった、『村上隆の五百羅漢図展』。
日本では14年ぶりの個展です。
メインの作品「五百羅漢図」は、東日本大震災がきっかけとなって制作されました。
国家の有事を目の当たりにして、人々が抱いた無力感。
長い日本の歴史の中で人々は、
このような無力感からの救いを宗教的な説法に求めてきたはずで、
今もまた新たな説法が必要だと村上さんは考えました。
長沢芦雪(1754-1799)や狩野一信(1816-1863)が描いた
五百羅漢図を徹底的にリサーチして、現代の宗教画は誕生しました。
縦 3m、横はなんと100mの大作。
渋谷駅にある岡本太郎の『明日の神話』の横の長さは30mですから、
いかに巨大な作品であるかがわかると思います。
作品は、25mずつ4つのパートに分かれていて、
中国の古代思想で天の四方を守る霊獣、
青龍・朱雀・白虎・玄武の名前が付けられています。
それぞれ全く異なるトーンで描かれ、
青龍は海、朱雀は宇宙、白虎は炎、玄武は雲の世界を表現しています。
白虎の炎の場面は「北野天神縁起絵巻」など絵巻物を思わせます。
一方、朱雀の宇宙は、ネット上の画像を処理して使用しています。
玄武に出てくる龍は、鎌倉時代の曼荼羅から引用、
と思うと朱雀の鳳凰は、手塚治虫の火の鳥がモチーフ。
古今東西のアート全てがインスパイアの源泉になっています。
ところが、これら先達のアートを超える緻密かつ大胆な表現こそ村上隆。
ビビッドな色を何層も重ねることでできる世界観、
100mの超大作ながら、
隅々まで考え抜かれているところがとてつもなく凄いのです。
そして、表情豊かでユーモラスな500人の羅漢たち。
一人一人の表情をじっくり観て回りたくなります。
救いの境地に辿り着くことができるでしょうか。
「五百羅漢図」は工房で制作されました。
美大生たち200人以上が参加、シフト制で24時間休みなく制作は続きました。
今回の展覧会では、制作過程の資料も展示されています。
中には、村上さんの厳しい指示もそのまま残されていて、
戦場のような工房の様子が伝わってきます。
しかし、この妥協なき緊張感こそが、
村上隆のグローバルでの戦い方。
そして内覧会では、コスプレ羅漢たちも集結、
祝祭の雰囲気を盛り上げていました。
『村上隆の五百羅漢図展』
2015年10月31日〜2016年3月6日
森美術館