POLA MUSEUM ANNEXで行なわれている山本基展『原点回帰』
ギャラリーの床全面に描かれた白い軌跡
宇宙から見た台風の渦
地上から見上げた銀河
そして禅寺の白砂の庭...
いろいろな風景に見えてくる。
実は、この作品、塩だけで描かれている。
油絵具にしても水彩にしても
顔料を溶剤で溶いて使うもの。
ところが塩は透明なので、水に溶かすと見えなくなってしまう。
だから溶剤は使わない。
油差しに塩を充填して、マヨネーズを絞り出すように
細い線を描いていく。
滑らかに描き続けるには、粒子の大きさが均一でなくてはならず、
いつも特定の塩を使っている。
粒子が揃っているので、繊細で純粋な白い線になる。
白砂の庭が宇宙を表現しているが、
この作品はそれ以上に躍動感や飛翔感を感じる。
生命にとって塩は最も重要な分子の一つであって
細胞が、白い軌跡に呼応しているかのよう。
この日、公開制作中だった山本さん、
妹さんが若くして亡くなってしまったことをきっかけに塩を使うようになった。
妹さんが与えてくれた画材、
家族への想いが清らかな宇宙を創り出す。
会期が終わると、鑑賞者に作品の塩を配り、
海に還すプロジェクトを行う。
海に塩をまく時、私たちはどんなことに気づくのだろうか。