風と記憶 – ミルチャ・カントル 『あなたの存在に対する形容詞』

ミルチャ・カントル

銀座メゾンエルメスでミルチャ・カントルの日本での初個展が行われています。

メゾンエルメスがガラスブロックで造られていて、外の光が差し込む建築であることから着想を得た新作を展示しています。

 

展示のメインはビデオ作品『あなたの存在に対する形容詞』

透明なプラカードを持った集団が東京の様々なところを行進する様子を描いています。

透明なプラカードには何の主張もなく、プラカードを持つ人たちも無表情、その行進は一陣の風のようです。

 

それでもこの映像から、私は、キリ・ダレナの、デモの写真からプラカードの文字だけを消した作品『消されたスローガン』や、今話題の大学の看板を思い出しました。

人々の記憶を呼び覚ます力を持った映像です。

 

風のような行進であっても、透明のプラカードには持っていた人の指紋が残されています。

ミルチャ・カントル

そして、透明なガラスでできた屏風に作家の指紋で有刺鉄線の模様をつけた作品が『呼吸を分かつもの』。

指紋はiPhoneの認証などにも使われる個人を特定できるもの、今回の展示の中で唯一個人の存在を実感させます。

ミルチャ・カントル

3番目の作品は、数十本のアルミの鐘からなる『風はあなた?』

 

鐘がなると、透明感のある音が会場に鳴り響き、その爽やかな音色は記憶に残ります。

ところが、この鐘、自分の思い通りに鳴らすことはできず、もう一度聞きたいと思ったら、ほかの人の協力が必要になる仕掛け。

 

透明なデモ行進と同じように、人は鐘を鳴らす風となり他の人の記憶を呼び覚ます。

こんな優しい関係が増えれば社会は変わるのでしょうか?


ミルチャ・カントル

『あなたの存在に対する形容詞』ミルチャ・カントル展

銀座メゾンエルメスフォーラム

2018年4月25日〜7月22日