『他人の時間』展 − リサーチ型アートで描くアジアの礎

他人の時間

Arts Initiative Tokyoでのゼミ「ディスコースのラボ」に参加して制作した、
『他人の時間』展についてのレビューを再編集したものです。

東京都現代美術館で行われた『他人の時間』展
アジアオセアニア(中国とインドの2大国は含まれていない)の
若手アーティストの作品を中心にした展覧会である。

アジア諸国は、第二次世界大戦から現在に至るまで、
それぞれの国に特異的な政治的社会的事件を経験してきた。
例えばベトナム戦争であり、クメール・ルージュであり、
インドネシアのスハルト独裁、フィリピンのマルコス独裁などである。
隣国の人々がこれらの状況下で苦しんでいたとしても、
それは自分達には関係のない、まさに「他人の時間」であった。

本展覧会は、各国のアーティストが自国の事件から着想を得た作品を提示することで、
隣国の人々が経験した歴史への認識を促し、世界観を問い直すものである。

本論では、同時期に開催されたベネチアビエンナーレ企画展
『All The World’s Futures』と比較することで、
『他人の時間』展の特徴を探ることにする。
『All The World’s Futures』は、
ナイジェリア出身のOkwui Enwezorがキュレーションを行ったが、
非常に政治色の強い展示と言われており、比較するのにふさわしいと考えた。
そして、大きく3つの特徴について議論したい。

Invisible things
現代アートは、表面に描かれている事象の奥に、
アーティストが本当に伝えたいコンセプトや制作背景を潜ませることができる。
そのコンセプトに気づいたとき、人々は感動する。

ところが、『All The World’s Futures』は、
最初の展示からして刀を素材にしたものであり、
カノン砲のインスタレーション、拳銃や手榴弾を素材にして椅子にしたものなど、
戦争や搾取を直接的に表現したものが目立った。
これが、政治色が強いと言われる所以である。

一方の『他人の時間』展は、
沖縄の海の爽やかさを映したミヤギフトシの『Ocean View Resort』
Lim Minoukの軽快な音楽『国際呼び出し周波数』など、
本来伝えたい社会的問題を作品の奥に潜ませ、
現代アートとしてコレクションしたくなるようなクオリティのものが多かった。
『他人の時間』展は、崔敬華(東京都現代美術館)、橋本梓(国立国際美術館)、
Reuben Keehan(クイーンズランド州立美術館│現代美術館)、
Michelle Ho(シンガポール美術館)の4人のキュレーターによる。
アジアのアーティストのことをよく理解したキュレーションであるといっていいであろう。

リサーチ型アート
『他人の時間』展の出展作家18人のうち、16人は1960年代以降に生まれている。
自国で過去に起きた事件も、
若い作家にとってそれはもはや『他人の時間』になってしまっている。
そのため、過去の資料などをリサーチして制作した作品が多いという特徴をもつ。
Kiri Dalena、Ho Tzu Nyen、Saleh Husein、mamoru、
Bruce Quekなどがリサーチをもとにしており、
またその表現もドローイング、写真、映像、インスタレーションとそれぞれ異なっている。

『All The World’s Futures』にもリサーチ型作品があったが、
膨大な作品群の中に占める割合は多いとはいえない。
しっかりしたリサーチに基づいた作品は、作品のコンセプトが明確になり、
観る者を惹きつける力をもつ。

For the Future
『All The World’s Futures』には展示の期間中制作を続けるプロジェクトがある。
Dora Garciaのパフォーマンス、
美大生が1日1枚カンバスに色を塗るMaria Eichhornの作品、
そしてブロックを作り続けるRirkrit Tiravanija
ブロックは10ユーロで売られ、中国の労働者の権利のために使うという。
これらは、『All The World’s Futures』のタイトルにあるように未来を築くプロジェクト。

一方、『他人の時間』展は、Ho Tzu Nyen
バイオレンスな映像で終わるという衝撃的な展開であった。
『他人の時間』を認識した私たちが、
この後どのように行動すればいいのかは、全て鑑賞者自身に任されている。

キュレーターが未来を提示してしまうと、ステレオタイプに陥る危険性はある。
しかし、本展は、アジア諸国の歴史への興味を向けさせる力をもつだけに、
未来を感じさせる作品があってもよかった。

また、本展は、東京、大阪、シンガポール、クイーンズランドを巡回する。
しかし、さらに中国・インドのアーティストも加えて全アジアを巡回し、
より多くの人々の間で議論を引き起こすきっかけとなるべきではないだろうか。

他人の時間

 


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